Introduction

2021年12月18日(土曜/昼)

柳下美恵サイレント映画の旅

上映作品 『サンライズ』 Sunrise
1927年/米フォックス映画社 / F・W・ムルナウ監督作品 / モノクロ・サイレント / 95分 / 日本語字幕翻訳:永田明徳

柳下美恵(piano) / 協賛:マツダ映画社(DVD及び資料提供)

柳下美恵サイレント映画の旅へようこそ。 第6回は鬼才F・W・ムルナウ監督の『サンライズ』です。第1回アカデミー賞 撮影賞・芸術的優秀作品賞受賞 昭和3年度キネマ旬報ベストテン第1位に輝いたメロドラマの傑作。同じ年に作られた『第七天国』『街の天使』と共にトリプルでアカデミー賞女優賞に輝いたジャネット・ゲイナーの演技、細やかな心理描写、美しく斬新な画面構成と移動撮影等、非の打ちどころがない素晴らしい映画です。年末のお忙しい中とは存じますがお運びいただければ幸いです。(柳下美恵)

演奏家紹介

  • 柳下美恵Mie Yanashita / piano

    柳下美恵Mie Yanashita / piano

    武蔵野音楽大学ピアノ専攻卒業。1995年、山形国際ドキュメンタリー映画祭オープニング映画生誕百年祭『光の生誕!リュミエール』でデビュー。国内海外の映画館、映画祭に招聘され伴奏を行う。ボローニャ復元映画祭でレギュラー伴奏を行うなど欧米スタイルのサイレント映画伴奏者は日本初。2006年度日本映画ペンクラブ奨励賞受賞。「映画館にピアノを!」を合い言葉に映画館で見るサイレント映画に注力中。シリーズ企画にサイレント映画の連続上映「ピアノ&シネマ」@横浜シネマ・ジャック&ベティ2015年〜、ピアノ伴奏で見るサイレント映画「ピアノdeシネマ」@UPLINK2014年〜、35mmフィルム+ピアノ伴奏で見るサイレント映画「ピアノdeフィルム」@横浜シネマリン2020年〜がある。

    作品解説
    映画史上の傑作の一つと評された無字幕映画『最後の人』で、その名声を世界中に広めたF・W・ムルナウが、ハリウッドに招かれてのアメリカ第1作がこの 『サンライズ』である。
    『最後の人』でコンビを組んだドイツ映画界きっての名脚本家カール・マイヤーを はじめとするドイツ人スタッフを引きつれてハリウッド入りしたムルナウは、フォックスに「金は出すが、口は出さない」という約束をさせ、ハリウッドからかなり離れ た湖畔に半年がかりで村のセットを作り、町に下る登山電車のレールを特設するなど、 豊富な資金力によって贅沢に制作された作品である。
    夏-都会―避暑といったことを象徴するプロローグから一転して夕暮れの湖畔の 村を行く女の素晴らしい移動撮影。次々と流麗な視覚美を繰り広げ、夕食時から翌々日の日の出までという丸一日半の描写の中に、純朴な若夫婦の心の中を吹き抜けて行った<嵐>と<人の情けの機微>を見事に描き出している。又、字幕の数が全篇を通 じて 50以下に抑えられており、映像にすべてを表現させようと言う意図が十分に感じられる。
    この映画はアメリカ製無声映画最後の傑作といわれ、空前の芸術作品として当時の米国批評家の絶賛を博した作品である。

    作品データ
    1927年 米 フォックス映画作品 原作:ヘルマン・ズーデルマン
    脚色:カール・マイヤー
    監督:F・W・ムルナウ
    撮影:チャールズ・ロシャー、カール・シュトルース
    美術:ロフス・グリーゼ
    出演:
    男 ジョージ・オブライエン
    妻 ジャネット・ゲイナー
    都会から来た女 マーガレット・リヴィングストン
    女中 ボディル・ライジング
    写真家 J・F・マクドナルド
    理髪師 ラルフ・シッパーリー
    マニキュア娘 ジェーン・ウィントン
    でしゃばりの紳士 アーサー・ハウスマン よく世話をする紳士 エディー・ボーランド

    (昭和3年9月6日大阪松竹座他封切)

    あらすじ
    それはある夏の事であった。美しい湖畔の静かなこの村にも、都会から避暑客が訪 れていた。そんな中の一人、美しい女が村の農夫を誘惑した。この男には優しい妻と可愛い赤ん坊までいたのだが、華やかな都会の女にたちまち魅せられてしまった。女は男を唆した。「畑を売って、一緒に都会へ行きましょう」「女房はどうするんだ?」 「舟をひっくり返して湖に沈めるのよ」それは、悪魔の様な女の囁きであった。
    翌日、男は赤ん坊を老婆に託して、妻を町に誘った。町へ行くには湖を小舟で渡らなければならない。舟をこぐ夫の異常な形相に、妻は本能的に危険を感じ、ひたすら憐みを乞った。男もなかなか手を下すことが出来ないでいる。間もなく舟が岸に着くと妻は一目散に逃げ出し、男は妻を追った。いろいろと妻の機嫌をとり結んだあげく、 二人は教会で結婚式を行っている幸福そうな新郎新婦の姿を目撃し、男の心の中に昔の愛情が戻って来た。都会で楽しい一日を過ごした二人は、再び夜の湖を舟で渡った。 雨が降り出したかと思うと、突然激しい暴風雨になり、木の葉のように波にもまれる 小舟から二人は湖に投げ出された。やっとのことで岸に泳ぎついた男は村人に助けを求め、救援の舟がいくつも漕ぎ出された。時ならぬ騒ぎに都会の女も現れた。女は男が自分の勧めに従って妻を殺したものと喜んだが、男は女を見ると怒りに燃えて女を絞め殺そうとするのだった。が、その時、計らずも妻が助かったという知らせが来た。 男は急いで家へ戻り、妻の看護をしながら悔悟の涙に咽った。
    やがて、暁の真赤な太陽が昇った時、二人はそれを眺めながらしっかりと抱合うのだった。


    資料提供:マツダ映画社